気持ちの揺れ

緩やかだが回復をしている患者さんによくあるのが前向きな気持ちと後ろ向きな気持ちの波である。脳梗塞の患者さんで、日常生活でも手がだいぶ使えるようになったと喜ぶ日もあれば、握る力がまだまだ弱い、全然回復していないと落ち込んで話す日もある。
また屋外歩行など見守りで出来るようになり旅行にも行けたと楽しそうに話す日もあれば、まだまだふらつきがあるのでもう好きな所にも行けないなど悲しそうに話す日もある。

療法士としても前向きな話を聞いている方が嬉しいし、やりがいを感じる。一方で後ろ向きな発言を聞いていると少しずつ改善しているのにどうして気づかないの?ともどかしさを感じたりもする。

本当は患者さんの気持ちの波に影響を受けることなく、行うべきことを行うことが良いのだろう。しかし、やはり同じ人間であり多少なりとも患者さんの心理状況に自分自身の心理も影響を受けてしまう。その影響がリハビリテーション中の自分の行動や考えにも及ぶようであれば良くない。そのため、患者さんの心の波が上にしろ下にしろ大きく揺れている時は、なるべく患者さんの会話を聞き流すようにしている。もちろん相づちなどの多少の応答はするが、会話内容をいつまでも頭に残さないようにしている。

患者さんには気持ちを私たちに思う存分はき出してもらってかまわないと伝えている。しかしどんなに療法士が心揺さぶられて何とかしようと思ったところで、運動麻痺を改善する力がアップするわけではない。そこがもどかしいところではあるが、どうしようもないのである。そしてそのどうしようもなさをいつか克服できるように、地道にリハを続けるしかないのだ。患者さんがあきらめない限り、いろいろな手段を通して目標とするところに到達できるまで療法士もまたあきらめないということだけは時に患者さんには伝えている。