途方に暮れてしまいそうになる

認知症の患者さんの訪問リハビリテーションで途方に暮れてしまう時がある。それは患者さんの家族(多くはそのパートナーである夫や妻)が、本人の目の前で「日に日に頭がおかしくなってきている」というようなことをさらりと言われたときである。こういう言葉は人間どんなになっても過敏に反応するものである。それを聞いた患者さんは一気に頭に血が上り、「誰の頭がおかしいって?」と興奮される。

私でなく誰から見てもそれは当然の反応だ。しかしそれを普通に言ってしまう家族がいるのが現実である。それも少なくはない数である。

 

恐らく毎日朝から晩まで一緒に暮らしている家族にとって認知症の患者さんのひとつひとつの行動や言葉が徐々に変わって、時には苛立つようなものに変わっていくのはかなりのストレスだろう。それを日々耐えているのである。しかも介護をしながら。そういう日常の中で時折プツンと何かが切れてしまうのかもしれない。そして普段は我慢したり、言ってはいけないと思っている言葉を溜まっているストレスを流し出すかのように言ってしまうのかもしれない。「あなたの頭はおかしくなってきているよ。(私は限界だ)」と。

 

怒って興奮している患者さんのフォローをしなければならないのは当然であり、またそんなことを言ってはいけないと家族を責めることもしてはいけない。正直辛く、もう逃げ出したいくらいの絶望的な気持ちになるが、取りあえずこの瞬間は患者と家族との物理的距離を離そうと、患者さんと屋外に散歩や趣味活動を促すようにする。ある程度の時間が過ぎればお互いの興奮もたいがいは落ち着き、また何事もなかったかのように、認知症の患者さんとその人をサポートする家族の関係に戻っていく。しかし時々あまたを過ぎるのは、それがある一線を越えてしまった時に起きてしまうかもしれない悲劇である。それを防ぐため、患者さんの認知症の状況と家族の精神状態にアンテナを張っておくようにしてはいる。