笑って済ます

「できるだけ笑って済ますしかないですよ。そうしないとこっちもおかしくなりそうですから」。認知症の患者さんの家族の言葉である。正直、一緒に暮らす家族はかなり大変だと思う。今までとは明らかに違う言動が見られ、時にはまったく会話が通じないときもある。そのような状況でも、長年一緒に暮らしてきた仲である。どこかにその人の面影を見つけ、それを頼りに一緒に生活し続けるためには、多少のおかしな言動は、”笑って済ます”しかないのだろう。

 

しかし、笑って済ませるかどうかはその人の性格による。そういう家族ばかりではないのが現実である。中には苛立ちから手が出たり、暴言になったりする家族もいる。その場合はもう家族が一緒に暮らすのは限界であり、一刻も早く施設入所などを検討する必要がある。こればかりは誰も責められない。しかしこういった状況に直面する家族がこれから増えていくということは現状では避けられないだろう(認知症に対しての特効薬などが開発されれば別だろうが)。笑って済ますというのは、一種の思考停止状態であるし、確かに認知症の患者さんの言動に対して一つ一つ何かを24時間一緒にいる家族が考えるというのはほぼ不可能だ。考えることを止めるということは最後の手段である。