失認タイプと失行タイプ

脳卒中リハビリテーションを行なっている時に一筋縄で行かなくなるのが、運動麻痺だけではなく高次脳機能障害がある患者さんの場合だ。高次脳機能障害と言っても非常に多くの種類がある。急性期病院で働いていた頃は脳卒中の患者さんを担当するとまず何らかの高次脳機能障害を持っていないかを疑って関わるようにしていた。なぜならば、高次脳機能障害があることで、通常の運動療法や動作訓練での関わり方が大きく変わってくるからだ。

 

きちんと検査等をしてこの患者さんはこういった高次脳機能障害をもっていると判断しなければならない。しかし、その検査そのものが患者さんによっては実施不可能であったり、検査でははっきりと症状が出ないが日常の動作を見ていると何か変だと思わせるような患者さんが多い。これはこの高次脳機能障害だと分かるような例が専門書では書かれていたり、症例発表になることがほとんどだが、日々の臨床ではそうはっきりしないことの方が多い。だからこそまず高次脳機能障害を疑ってかかることが見落としを防ぐために重要であった。

 

しかし中々分かりにくく、難渋していた。そこでリハビリテーション専門医の一人が言っていた非常に大まかな捉え方が役に立った。高次脳機能障害を専門にしている医師や療法士からすると大いに批判されるようなものだ。まずは日常の動作で何か変だと思わせるような患者さんの場合、失認タイプか失行タイプかを判断する。失認タイプは文字通り、自分の体や動作を認識できない。だから言葉かけ等で徹底的に動作方法や運動麻痺のある側の体を意識させる。その繰り返しで運動療法や動作訓練を行う。一方で失行タイプは、ある動作自体を意識させると一気に混乱してきちんとその動作が出来なくなる。例えば歩行練習で「足を前にしっかり出して踵から下ろす」などといちいちその動作を説明して意識させると非常にぎこちない歩き方になったり、全く足を振り出せなくなるなどが生じる。だからなるべく動作を意識させるような言葉かけは止め、簡単に「歩いてみましょう」などと行うどうさを伝えて適時動作を介助する練習が必要となる。失認タイプと失行タイプでは全く違ったアプローチとなるのである。

 

先日仲間内での症例発表で「プッシャー症状」なる言葉が出てきて、失認タイプと失行タイプの話を思い出した。恐らく「プッシャー」などという捉えどころのない考え方よりもずっとこの方が臨床では役に立つはずである。