生理学と思いやりが繋がった日

患者さんの家族から時々聞かれることがある。「さすったり、なでたりしてあげても大丈夫ですか?」

 

痛みや不快な感覚というものは誰しも経験した事があるだろう。これらが厄介なのは他者には見た目に分からない点である。変な言い方だが感覚を感じているのは脳自体である。痛みの刺激となっているものは体のある部位で起きているが、それを痛いと感じるのは頭の中で起きている現象なのだ。これは学生時代の生理学で教えてもらったことの中で今でも印象的な内容である。痛みは普段の生活の中で普通に経験することで、ある種当たり前過ぎるが、刺激が神経によって脳まで伝えられてそこで初めて「痛い」と感じるというその仕組みは目からうろこであった。

 

なぜこんなまどろっこしいことを書いているかというと、痛みを訴えている人に(もちろんすぐに病院に連れて行った方がいい場合は除いて)、家族や側にいる人がごく自然に行っている行為が生理学的に考えて実に理がかなっていることを伝えたいからである。

 

痛がる人を前に私たちは自然に手を差し伸べ、その人の体をさすっている。「手でさする」ことで痛みを起こしている刺激とは別の刺激が与えられ、神経を通して脳まで伝わって痛みとは違う感覚が感じられる。そうすることで痛みの感覚の他にも「手さすられた」という感覚が加わり、痛みは少しではあるがごまかされるのである。

 

何も深く考えずに相手を思いやり自然と生じた行為がとても意味があるのだというこの事実を知り私は感動した。何が言いたいのかと言うと、あなたの親しい人が痛がっていたら手術部分は除いて迷わずその手でさすってあげてくださいということだ。