認知症について注意している事

訪問リハビリテーションに行っている患者さんの中でもいろいろ考えてさせられるのは認知症の方である。「認知症」という病名自体は世間でも広く知られるようになったが、実際にどのような症状があらわれるのかということになると明確には言えない面がある。物忘れがひどくなる「記憶障がい」、時間や日時が分からなくなる「見当式障がい」などはっきりと分かるもの、怒りっぽくなる、意欲がなくなる等は認知症からくる症状なのかどうなのか判断が難しい場合がある。

 

患者さんの中には、これまで穏やか性格だったのにある時から急に不機嫌になる人たちがいる。家族はそれが認知症の進行だと不安に思って何度か相談されたことがある。しかしよくよく話を聴いてみると、ちょうどそれが夜間のトイレの失敗とタイミングが重なって来るのが分かった。そして更にその夜間の失禁についても詳しくたずねると、夜用のパンツは専用のモノをしているので、通常は多少の尿は吸収されるはずであるが、どうも横モレをしているらしかった(横向きで寝ていると起きやすい現象)。そのためパジャマが濡れ、風邪を引かせないようにパジャマを着替えるという事が頻回になっていた。

 

ここから疑うことができるのは、トイレの失敗が患者さんのプライドを大きく傷つけていること、それに伴う自信喪失とどうしようない感情のはけぐちが家族へと向かい、「喜怒哀楽」の「怒」が誇張されてきたのではないかということだ。これ自体は通常でも納得できる反応であり、認知症の進行だと一概に決めつけることは出来ない。先ずは夜間のトイレの失敗をパットやオムツの工夫によって防ぐ事が第一である。ここで療法士としてできる事は、オムツの種類、オムツ内のパットの付け方を調べて家族に伝える事と家族にもしかしたら認知症が進行した訳ではないないかもしれないと話す事である。

 

脳卒中時に生じる可能がある「高次脳機能障害」とともに「認知症」という言葉もイメージ先行で認識されるようになった。しかし脳の機能はとても複雑で、どういうふうな症状がどういう時に出るのかは個人差がある。そして症状そのものを回復させるのは難しい場合が多いので、「どういう時にその症状が出るのか」をじっくり観察し、そのきっかけがもしあるのならば、それをなくして行く事で症状の出現を抑えられるかもしれないということは脳の疾患では特に注意しておくことだ。