認知症患者さんの表情を読む

訪問リハビリテーションで担当する患者さんのお宅について、まず無意識に注意しているのはその患者さんの表情や声色だ。特に認知症の患者さんではその日の状態がはっきりと分かることがあるので重要である。

 

以前にも訪問するといつもに比べて表情がこわばった患者さんが迎えてくれたことがあった。更には無精髭でいつもと容貌が違う。家族と話すとやはり前の晩に失禁があり、それを指摘すると機嫌を崩してそのまま怒りモードに入ったとのことだった。そのせいで全ての生活行為に影響が出て、毎朝するひげ剃りもその朝はしなかったということである。

 

そんな怒りの感情で支配されている患者さんにはこちらからの下手な声かけは余計に気に障るのでいつもより会話量をずっと少なくする。会話より運動を黙々と行なってもらう。そして屋外歩行などをしてとにかく負の感情を発散してもらう。外に出た時に「今日は風が冷たいですね」とか「お日さんが出て暖かいですね」とかいう話で言葉を交わす。無駄な会話は逆効果だが、短くてもいいので言葉を交わすという事は重要である。怒りの感情以外の言葉を話すというアウトプットが、更に負の感情を忘れさせてくれるからだ。そうすることでこわばった表情が少しでも崩れたら、徐々にその患者さんの気持ちはプラスマイナスゼロへと近づいていくようだ。

 

不思議なもので人間は泣くという行為によって更に悲しみの感情を増幅させたり、笑うという行為で更に楽しいという感情を増幅させることがある。表情自体が感情にも影響するようで、それを上手に利用できる時は利用するにかぎる。特に感情という脳の機能にとってはもっとも原始的なものは、認知症の患者さんにも大きな影響が出る。悪い方向にも、良い方向にも感情がその患者さんの生活に影響するので、それが見て取れる患者さんの表情にはいつも関心をもって接している。